SFTSを知っていますか?

薬剤師 なお

○世界初のダニ感染症薬

もう昨年の話になりますが、富山の地方紙の第一面に富山市内で製造されているお薬が、「世界で初めて、ダニ感染症薬として認められた」との記事が載りました。
そのお薬は、もともとインフルエンザ用のお薬として開発されようとしていたものですが、動物実験の結果から、妊娠中に服用することにより胎児に奇形が起こる可能性が示されたため、妊婦や妊娠している可能性がある女性には投与しないこととされており、効能効果も「新型又は再興型インフルエンザ感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果が不十分なものに限る。)」とかなり制限されて認められたお薬です。そのため市場には流通しておらず、新型インフルエンザ等が流行した場合に国が使用すると判断した場合にのみ使用できる国の備蓄用のお薬として製造されていました。
そのお薬が、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」ウイルス感染症に対する効能を持つ世界で初めてのお薬として認められ、2024年8月に1錠3万9862.50円で薬価基準(医療保険から医療機関に支払われる医薬品の価格)に収載されました。




 

○重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは

さて、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」、大変難しそうな病名ですが、2011年に中国で発表されたブニヤウイルス科フレボウイルス属の新しいウイルス(SFTSウイルス)による感染症で、マダニを媒介して起こる感染症です。日本では2013年に初めて第4類感染症として患者が報告され、それ以降2025年1月末までに31都府県で1,058症例が確認(国立感染症研究所調査)されています。
SFTSは、マダニに刺されてから5日~2週間程度で発症します。主な初期症状は、発熱、全身倦怠感、消化器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)で、重症化し、死亡することもあります。国立感染症研究所の研究では日本での致命率は27%と、かなり高い数値となっています。
感染の多くは、SFTSウイルスを有するマダニに刺されることにより起こると考えられますが、マダニに刺された痕が見当たらない感染者もいるとのことです。
マダニは、家庭内で見られる食品に発生するダニや寝具等に発生するダニとは異なり、屋外のシカやイノシシ、野ウサギなど野生動物が生息する環境に多く生息しています。また、畑やあぜ道などにも生息している可能性もあります。
 




 

○SFTSウイルスに感染しないために

SFTSウイルスに感染しないためには、マダニの活動が盛んな春から秋にかけて、草むらややぶに入る場合には、長袖・長ズボンに加え、足を完全に覆う靴を履き、帽子、手袋を着用し、首にタオルを巻くなど、肌の露出を少なくすることが大事です。また、マダニが付いたのが分かりやすいよう明るい色の服がお薦めです。さらには、事前に、身体に虫よけスプレーなど忌避剤を散布しておくことも有効です。
また、屋外活動後は、上着などは家の中に持ち込まないようにし、家に入ってからもシャワーや入浴を行い、マダニに刺されていないか確認してください。特に、首、耳、わきの下、足の付け根、手首、ひざの裏側などがポイントです。

マダニに吸血された場合には、自分で取ろうとせず、皮膚科などを受診して除去してもらってください。吸血中のマダニを無理に引き抜こうとするとマダニの一部が体内に残ってしまい、化膿したり、病原体を体内に入りやすくしてしまうことがあります。
ダニに刺されてから数週間程度は体調の変化に注意し、発熱等の症状が出た場合には、速やかに医療機関を受診し、ダニに刺されたことを医師に説明してください。

飼っているペットから感染した事例もありますので、散歩後など、ペットにマダニが付いていないか確認しましょう。ペットにマダニがしっかり付いている場合は獣医師に除去してもらいましょう。ペットがマダニに刺された後、体調不良になった場合は、動物病院で診てもらいましょう。
これからの季節、皆さま方も、野や山に入られる機会が増えることと思います。その際、SFTSという感染症のことも頭の片隅に入れておいていただければと存じます。





 

○くすりの富山

 



話が戻りますが、これまで、SFTSに対する治療薬はなく、その症状を抑えることしかできなかったのですが、世界で初めて、SFTSウイルス感染症を治療するお薬が、富山市内に製造所を持つ製薬企業で誕生しました。
ただこのお薬は、妊婦や妊娠している可能性がある女性には使用できないお薬であることや、SFTSに対しても、SFTSについての知識・経験を持つお医者さんのもとでないと使用されないお薬です。
また、インフルエンザに対しても、新型インフルエンザなど、他の抗インフルエンザ薬が効かなく大流行した場合(パンデミック)にしか使うことができないお薬です。
そんなお薬ではありますが、富山常備薬と同じ富山に拠点を持つ企業が世界初のSFTS治療薬を開発できたことは、大変うれしいことであり、励みにもなります。
富山常備薬に勤務する私も、皆さんの健康増進に貢献し、「くすりの富山」が、さらに羽ばたけるよう、努めてまいりたいと思っております。





 

【参考資料】
1) 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について|厚生労働省(mhlw.go.jp)
2) 感染症発生動向調査で届出られたSFTS症例の概要(2025年1月31日更新)(niid.go.jp)