「富山シャクヤク」のブランド化

薬剤師 なお

「立てば芍薬しゃくやく 座れば牡丹ぼたん 歩く姿は百合ゆりの花」
という言葉を皆さんも一度はお聞きになったことがあるのではないかと思います。美しい女性のことを例えた言葉です。
そのなかのひとつ芍薬は富山では5月頃に大変きれいな花を咲かせます。皆さんの家でも、お部屋やお庭で彩をそえてくれるかもしれません。


富山県薬事総合研究開発センター薬用植物指導センターの芍薬

 

漢方薬や生薬製剤の原料シャクヤク

さて、シャクヤクは、花ではなく、根が漢方薬や生薬製剤の原料として使用されています。2020年度の日本漢方生薬製剤協会(我が国の漢方薬等のメーカーの業界団体)の会員企業のシャクヤクの使用量は1,712トンと全生薬の中で第3位とよく使われる生薬のうちのひとつとなっています。しかし、国産はわずか40トン(2.3%)で、残りはすべて中国から輸入されています。
国内産のシャクヤクでは、大和シャクヤクが一つのブランドとして流通しています。
シャクヤクは、痛みやこむら返りに用いられる芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとうや血の滞りが原因となる婦人病などに用いられる当帰芍薬散とうきしゃくやくさん桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがんなどの漢方薬などに用いられています。


シャクヤク(富山県薬事総合研究開発センター薬用植物指導センター提供)

 

「富山シャクヤク」のブランド化

「くすりの富山」とはいうものの、富山では生薬の栽培が特別盛んというわけではありませんが、全国でもまれな県立の施設として、「富山県薬事総合研究開発センター薬用植物指導センター」(以下、「センター」という。)があります。
センターは、薬用植物の栽培・調製加工法を確立し、種苗の供給・栽培普及指導を行って、富山県内での薬用植物の栽培普及を図る業務を行う施設として1967年4月に富山県立の施設として設置されました。他に、薬草に親しんでもらうための薬草観察会が開催されたり、屋外施設が常時解放されています。
センターでは、世界に誇る200種類を超えるシャクヤクの品種を有しており、そのなかから「くすりの富山」発のシャクヤクを見つけようと、2010年から「富山シャクヤク」のブランド化を目指す事業がスタートしました。

大和シャクヤクは「梵天ぼんてん」という品種等のシャクヤクですが、まず、シャクヤクの有用成分とされている「ペオニフロリン」を「梵天」より多く含む品種を候補として、6品種が選ばれました。


梵天(富山県薬事総合研究開発センター薬用植物指導センター提供)

 

さらに6品種について、根の太さや病害虫など生産性や商品性が良好で、高い薬効を持っており、「ペオニフロリン」以外の有用成分を含む品種で、薬用として収穫されるのに4年もの期間がかかることから、切り花としての有用性が高い品種がどれかという観点からも検討されました。
これら様々な検討を経て、ピンク色の花を咲かす「春の粧はるのよそおい」が第一候補品種として絞られました。


春の粧(富山県薬事総合研究開発センター薬用植物指導センター提供)

 

その後、「春の粧」の最適な栽培方法の検討、さらには実生産規模での調製加工方法の検討、薬効に影響を及ぼさない採花方法の検討なども行われ、「シャクヤク(薬用)栽培マニュアル」が作成されました。
そして、2023年春には、栽培農家の実生産株を調製加工したシャクヤク根が出荷されました。
なんと、センターで10年以上の年月を経て、富山ブランドのシャクヤクが日の目を見ることになったのです。

この「富山シャクヤク」が広く普及し、「くすりの富山」ここにありという名声をさらに高めていってもらいたいものと願っています。




 

(参考文献)
●山本豊,他.日本における原料生薬の使用量に関する調査報告(3).生薬学雑誌.2023,77(1),p.24-41
●富山県薬事総合研究開発センター薬用植物指導センターパンフレット.2023.6
●渡会三千代,他.富山シャクヤクのブランド化推進事業報告 これまでの歩みと成果.富山県薬事総合研究開発センター年報.2023,50,p.58-65
●富山県薬用作物生産技術確立プロジェクトチーム.シャクヤク(薬用)栽培マニュアル(令和5年度版).2023,18p.